こんにちは。G-Club Tokyoの池森です。
Gibsonの中で人気を二分しているモデルといえばJ-45とHummingbirdではないでしょうか?
「頼りになる馬車馬=”Workhorse”」の愛称を持つJ-45。
一方「歌い手の為に設計された」とも言われ、ピックガードにデザインされたホバリングしながら花の蜜を吸うハチドリの名を持つHummingbird。ハチドリはネイティブアメリカンの間では「愛と美と平和のシンボル」と言われているそうです。
同じスプルーストップ、マホガニー材をサイド&バックに採用しているモデルですが、サウンドキャラクターが異なるこの2つの機種。
互いにラウンドショルダー(なで肩)タイプ、スクエアショルダー(いかり肩)タイプの代表モデルとして長年愛され続ける魅力とその違いに迫ってみたいと思います。
History ~ルックス/仕様の変遷(誕生~1960年代)~
J-45 “Workhorse”
“Simple is the best !”と言わんばかりのJ-45。
当時$45で販売されていたことは有名ですね。
ポジションマークはドット。ペグは3連のKluson製ホワイトボタンタイプ。
ヘッドロゴはゴールドのシルクスクリーン。
J-45は1942年の誕生よりサンバーストカラー。
1947年にナチュラルバージョンが加わりますが、名称は「J-50」と名付けられ別モデルとして展開されます。
1956年よりピックガードデザインが縦長の特徴的なシェイプに変更され、通称「ラージピックガード」が登場。
当時は薄いピックガードを貼った後に塗装していた為、経年変化等により膨張率の違うピックガードとトップ板が干渉しトップ板が割れてしまう事が多々あり、1964年より塗装後のトップ板に厚手の少しスリムシェイプになったラージピックガードが貼られるようになりました。
1962年よりチェリーサンバーストが標準カラーとなり、ヴィンテージ市場においては1963~1965年辺りのフェイド(褪色)しオレンジ色のようになった個体は根強い人気。
1964年以降の厚手のピックガードは金型に材を流し込んで成型していたために1枚1枚柄が異なり、墨が流れたような模様がとても美しく人気があります。
サウンドに大きな変化をもたらしたのが1956年よりオプションで採用されたアジャスタブルサドル。
両サイドのスタッド(ネジ)を回す事により弦高を調整出来る画期的なシステム。
初期(’56~’57)はアルミプレートの上にデルリン製サドルが載っているタイプでしたが、以降セラミック製に変更となり1962年以降はデフォルト仕様となります。
(1961年まではノーマルサドルとADJサドル仕様が共存)
セラミック製だったアジャスタブルサドルは1960年代後半にローズウッドやエボニー製に変更されます。
Hummingbird “Symbol of Love,Beauty and Happiness”
1960年に生を受けたHummingbirdはセラミック製ADJサドルが標準仕様。(現行品はノーマルサドルのみ)
ボディカラーも1960年のリリース時にはチェリーサンバーストのみの展開でしたが、1963年よりナチュラルカラーもラインナップに加わりました。(初期にサンバーストカラーも実在)
Hummingbirdはマザーオブパール(白蝶貝)をヘッドロゴ、指板のダブルパラレログラム(平行四辺形)インレイに採用し、ペグはゴールドシャフトのキーストーンタイプ。
ネックバインディングまで施しJ-200に続く高級モデルとしての地位を得ます。
(※価格的には1962年にDoveが登場し入れ替わる)
1963年前後のブリッジ&サドルについて
スモールボディのLGシリーズに採用されていたプラスティック製ブリッジは1963年製のJ-45、Hummingbirdに多く存在します。このブリッジは中身が空洞で、トップ板に接触しているのは縁のみ。
歯切れ良さが更に強調され魅力的なのですが、割れたり変形してしまっている個体も多く、現存するヴィンテージギターにおいてはウッド製ブリッジに交換されているケースが多く見られます。
ストロークやカッティングで歯切れの良さが強調され、指で爪弾いた際には少し鼻にかかったような甘いトーン。
「Gibsonらしさ」を象徴するのがアジャスタブルサドルといっても過言ではないでしょう。
しかしながら好みが分かれるところで、ヴィンテージ物ではブリッジごとノーマルサドル仕様に交換されている個体も見掛けます。
レアカラー
60年代後半のチェリーサンバーストは塗料が変更され殆どフェイドせず、赤味が強く残っているのが特徴。
サンバーストカラーが復活するのは1967年となります。
同時にこの年より1969年までの短期間でレアカラーで希少性が年々高まっている黒や赤(共に白いピックガード)が登場。
実機に出会った事はありませんが、個人カスタムオーダーものだった可能性も否めませんが、ブラウントップ、ゴールドトップも存在したようです。
1965年以降の特殊仕様
J-45,Hummingbirdに限らずGibsonギターは1965年途中よりナット幅約39mm、ヘッド角14度のナロウネック仕様に変更となります。親指を回し込みやすいので握り込み易く、弦のテンションも若干弱くなります。過渡期にはレギュラーのナット幅(約42mm)でヘッド角14度といった個体も存在しました。
上述したJ-45のレアカラーに採用された白いピックガードは隅をビス留めされ、同時期にHummingbird、Dove、J-200も同様にビス留めピックガードが採用されていました。
トップ板にビス穴が開いているのにそこから板割れしている個体を見た事がないというのが何とも不思議です。
ブリッジが上下逆になったボトムベリーブリッジが存在するのは1968~1969年製。
文献によるとHummingbirdはJ-45同様に24 3/4″スケール(弦長)がレギュラースペック。
Doveが登場した1962年以降にDove同様の25 1/2″ロングスケールのHummingbirdが混在しているとあります。
職業柄今まで複数のヴィンテージHummingbirdに触れてきましたが、1965年以前の個体で24 3/4″スケールのHummingbirdに出会った事がないんです。
私の所有する1963年製、当店リペアスタッフが所有する1964年製もロングスケールです。
店頭で取り扱った初年度(1960)ものもロングスケールでした…正解は?
近年物のスケールは24 3/4″スケールとなります。
サウンドの差は?
スプルース×マホガニーという材構成は共通しているJ-45 & Hummingbird。
現行品はスケールも同じです。
サウンドにおいて共通点はあるもののそれぞれに異なる特長を持っています。
勿論「弾き方」によって色々な表情を見せてくれる訳ですが、J-45が音の塊が飛んで行くのに対し、Hummingbirdはやわらかく拡がって行く印象があります。
どこでこの差が生まれるのでしょうか?
Hummingbirdのサウンド
Hummingbirdの方がサイズ的に大きく、実はMartinのドレッドノートモデルよりも大きいのです。
クビレ部はJ-45よりも浅く、トップ板上部の横幅が広くなっていますのでトップ板のXブレイシング(力木)の長さも異なります。
当然弦振動が加わった際のボディの共振具合に違いが生まれます。
バックブレイシングについてはHummingbirdの方が高さは低いのですが、厚く堅牢なものが採用されており、これが安定感に貢献しているのかもしれません。
ボディ容積が大きい分音量は増し、サウンドバランスの良さから色々なジャンルの音楽にも対応させやすく汎用性の高さを評価されているのがHummingbirdなのかもしれません。
J-45のサウンド
「汎用性」の観点でも勿論負けていないJ-45。
Gibsonアコースティックギターのフラッグシップモデルとして1942年のデビュー以来80年以上も愛され続けていることで証明されているかと思います。
リリース当時はトップ材にアディロンダックスプルースを採用し、「ベースボールバットネック」と呼ばれた極太ネック仕様。
戦時中は材の不足からオールメイプル仕様やトラスロッドレス等のイレギュラー仕様も多く存在しました。
1950年代中期よりアジャスタブルサドルが登場したりと歴史が長い分マイナーチェンジが繰り返され現在に至ります。
ブレイシングに関してもスキャロップドだったものが1950年代後半よりノンスキャロップドに変更され、1960年代に入るとブレイシング自体の幅が広くなりました。
当然出力されるサウンドも変化を続けている訳ですが、サウンドのコアの部分は現在でも継承されているような気がします。
やさしく爪弾けば「素朴」「人間くさい暖かさ」が、力強いストロークやカッティングでは音の塊が真っ直ぐに飛んで行き、正に「ロックなアコギ」の代名詞とも呼べるような存在感は唯一無二と呼べるのではないでしょうか。
著名な使用アーティスト
<J-45使用アーティスト>(※敬称略)
・Bob Dylan ・Bruce Springsteen ・Jackson Browne・DONOVAN・John Lennon etc.
・吉田拓郎・斉藤和義・奥田民生・秦基博・山崎まさよし・桜井和寿・長渕剛・福山雅治・藤原基央(BUMP OF CHICKEN)・清水依与吏(back number)・星野源・宮本浩次(エレファントカシマシ)・あいみょん・miwa etc.
<Hummingbird使用アーティスト>(※敬称略)
・Mick Jagger(Rolling Stones)・Keith Richards(Rolling Stones)・Jimmy Page(Led Zeppelin)・Janis Joplin・Corinne Bailey Rae ・Thom Yorke etc.
・忌野清志郎・仲井戸麗市・福山雅治・清水依与吏(back number)・小渕健太郎(コブクロ)・松尾レミ(GLIM SPANKY)・大槻ケンヂ(筋肉少女帯) etc.
まとめ
Gibsonアコースティックギター全般に言えることかもしれませんが、「歌い手に愛されるギター」であることは間違いないのではないでしょうか?
声に寄り添い、しっかりとサウンドキャラクターを主張しながらも歌の邪魔にならないバランス感。
その筆頭がJ-45でありHummingbirdなのだと思います。
Gibsonのアコギに対して「ピックで掻き鳴らしてデカイ音を出す!」といったワイルドなイメージをお持ちの方も多いかと思いますが、手に取って柔らかく優しく弾いてみてください。
人間味のある暖かなマホガニーサウンドに包まれ歌いたくなるかもしれません。
感情の赴くままに掻き鳴らせばシャウトしたくなるかもしれません。
高級ギターであることは間違いないのですが「生活密着型ギター」として愛され続けているのがGibsonアコースティックギターだと思っています。
ボディシェイプもカラーバリエーションも豊富。
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